1級の重度後遺障害の高額解決事例
重度後遺障害の事案は、賠償額が高額となることが多く、特に若年者が被害者の場合には、3億円を超える賠償額となるケースも少なくありません。
当事務所で担当した1級の重度後遺障害事案の中で、総額4億円を超える損害賠償(人身傷害保険による保険金を含む)が認められた事案5例について、参考までにご紹介いたします。
事例1~4は地方裁判所において裁判所の和解勧告を受けて和解したものです。事例5は、1審判決は札幌地裁平成28年3月30日(自動車保険ジャーナル1991号)で、その後、控訴審(札幌高等裁判所)において裁判所の和解勧告(1審判決と同内容)に基づき和解をしたものです。

交通事故の事案は、加害者側の任意保険(対人賠償責任保険)、加害者側の自賠責保険、被害者側の人身傷害保険等、被害者の被った損害を填補するための支払を受ける手段がいくつかあり、どのタイミングでどの支払を受けるかも重要です。通常は、以下のような支払の流れで解決となります。
1 任意保険(対人社)
通常のケースでは、まずは、事故直後から発生する様々な損害(治療費や休業損害)について、加害者側の任意保険会社(以下「対人社」と言います。)が随時支払を行います。【表1】の各事例で「任意保険(対人社)」と記載されているものは、対人社が病院に直接支払ったり、被害者の毎月の給与額を補償するために支払われた金額です。
2 被害者請求による4000万円
上記1のとおり、しばらくの間は、対人社から治療費・休業損害等の支払を受けながら、治療を継続していきます。重度後遺障害の事例は治療期間が長期化することが多く、短くても1年程度、長いと5年以上もの治療が必要となるケースもあります。治療が終了し、医師が「これ以上は医療行為をしても大きな改善は見込めない」と判断した時点(これを「症状固定」と言います。)になると、主治医に「後遺障害診断書」を作成してもらいます。被害者が「後遺障害診断書」を、直接、自賠責保険会社に提出して、後遺障害分の損害賠償額の支払を求めることを「被害者請求」と呼んでいます。被害者請求をすると、自賠責保険会社は、後遺障害の等級を認定し、等級に応じた損害賠償額を支払います。1級の後遺障害が認定された場合には、4000万円が支払われることになります。
【表1】の解決事例1~5は、いずれも、自賠責保険の被害者請求を行っており、1級の後遺障害が認定されて4000万円が支払われています。
この4000万円は、被害者に直接支払われますので、これを元手にして、家屋改築や介護用車両の購入等の将来介護の準備を整えることになります。実際に、家屋の改造をしたり、介護ヘルパーを手配したり、介護施設に入所したり、介護用品を購入することで、毎月の介護費用や介護用品の買換費用に関する具体的な証拠(領収書や介護計画)も揃います。民事訴訟は「証拠が全て」ですので、4000万円をもとにしてどれだけの証拠を揃えるかが重要となります。
3 人身傷害保険金の先行受領について
在宅介護を行うケースでは、家屋改築に数千万円かかるケースもあり、そのような場合には被害者側が契約している保険会社の「人身傷害保険」を先行して受領するケースもあります。事例2~4では、人身傷害保険金を先に受領しておりますが、これは、被害者請求による4000万円だけでは、家屋の改築(新築)、介護用車両の購入等に充てる資金が不足するため、人身傷害保険の先行支払を受けた事例です。
他方、事例1や事例5では、人身傷害保険金は受け取っていません。対人賠償責任保険は、通常、保険金の上限がない(無制限)ので、過失割合に問題がないケースでは、人身傷害保険金を先行受領しないこともあります。人身傷害保険金を受領すると、その部分については元本が減り、遅延損害金(解決事例1~5では年5%、現在は年3%)が減少するというデメリットもあります。
なお、解決事例4では、加害者に対する民事訴訟の前に1億円を超える人身傷害保険金を受け取っていましたが、加害者に対する民事訴訟が終了した後に、さらに、追加で人身傷害保険金630万円以上の支払いを受けております。この際には、人身傷害保険の保険会社は、当初、追加支払を拒否したため、結局、保険会社と訴訟となり、勝訴しました(札幌地方裁判所令和5年2月27日判決)。この判決については、こちらに詳しく解説しております(保険会社が、自社の約款を都合よく解釈して払い渋りをしている典型例です。)。
4 加害者に対する損害賠償請求訴訟について
以上のとおり、自賠責保険の被害者請求による4000万円(必要ならば人身傷害保険金)の支払を受け、将来の介護の方針を決定し、家屋改築、施設への入所、ヘルパーの手配、介護用品の取得等の準備を行い、領収書等の証拠を収集したうえで、民事訴訟を提起することになります。
重度後遺障害の場合には、提訴前に、将来介護の方針を決定します。当事務所では、1級の後遺障害の事案を多く担当しておりますが、この点は、毎回、被害者のご家族と相談しながら、非常に悩むことになります。大まかにいえば「病院での介護」「施設での介護」「在宅介護」のいずれかを選択することになりますが、これは、被害者本人の症状、ご家族の年齢や健康状態、自宅の状況(改築可能かどうか)などを総合的に判断し、被害者及びご家族が安心して生活していける方法は何か、ということを考えて決断することになります。
民事裁判では、介護の内容、介護にかかる労力や費用、家屋改築の必要性等について、弁護士と被害者家族が二人三脚で、各損害項目の内容について、丁寧に主張・立証していくことになります。
事例1~5の事案で、実際に、裁判所が和解案で示した損害の内訳は、以下のとおりです。

上記の損害費目の内訳について補足説明します。
(1) 「付添介護費用(症状固定時まで)」は、ご家族が被害者のために病院において付添をした費用のことです。これについては、保険会社側は「付き添っていたことが確認できない。」とか「現在の病院は『完全看護』なので、家族の付添は必要ない。」という反論を必ずしてきますので、①家族が付き添ったこと、②家族の付添が必要であったこと、の証拠を用意しておくことが必要になります。
(2) 「逸失利益」とは、「交通事故がなければ働いて得られたであろう生涯収入の現在価値」のことです。通常は事故前年の現実収入をベースに計算しますが、学生や若年者の場合には、賃金センサスの平均賃金を使って計算することになります。また、勤務先が大手企業等で昇給のモデルや生涯賃金の計算が可能な場合には、勤務先の協力を得て、生涯収入の額を個別に立証するケースもあります。
(3) 「将来介護費用」とは、介護のために必要なヘルパーの費用、施設の費用等です(ご家族が介護する場合には、その介護行為を金銭換算した額を含みます。)。遷延性意識障害の場合であれば、車椅子での移動、食事介助、着替えの介助、おむつ交換、入浴介助、サクション(痰吸引)、投薬等、日常生活において様々な介護が必要になります。将来介護費用の額は、事案によってかなり大きく異なります。提訴する段階で、将来介護費用について適切な証拠資料を準備できるかどうかが、高額解決のためには最も重要な点です。
(4) 「将来介護雑費」とは、介護のための雑費(おむつ、尿取りパッド、カテーテル、介護用手袋等の様々な介護用の消耗品)にかかる費用です。
(5) 「住宅改築・建築費用」とは、自宅を介護用の住宅に改築したり、建替えた場合の費用です。もっとも改築費等が全て認められるわけではなく、後遺障害のために改築せざるを得なかった部分のみが賠償の対象となります。特に、新築・建替えの場合には、どこまでが「交通事故による後遺障害と因果関係のある損害」なのか、立証は難しくなります。建築士や建築業者と協力して、丁寧な立証をすることが必要となります。
(6) 「介護用品等取得費用」とは、車椅子、介護用ベッド、介護用車両、リフト、痰吸引器、装具等の介護用の機器の購入費用です。また、「介護用品買換費用」は、それらの介護用品を将来、買い換える場合の費用です。これらの費用が認められるためには、介護用品の必要性、単価、耐用年数等を丁寧に立証していくことが必要となります。
(7) 「慰謝料(後遺障害)」とは、重度の後遺障害を負った被害者の精神的苦痛を金銭に換算したものです。日弁連交通事故相談センターが発行している「損害賠償額算定基準」では、1級の後遺障害慰謝料は2800万円とされています。ただし、近年では、将来、長期にわたって介護を担っていく家族固有の慰謝料も認められるようになっており、本人分と家族分を合計して3000万円を大きく超える例もあります。
(8) その他、交通事故が原因となって発生した様々な損害があります。特殊な損害費目については、個人情報の関係でここには記載できませんが「これは交通事故による損害ではないか。」と思ったら、領収書等の証拠を保管しておき、弁護士に相談すると良いと思います。
(9) 最後に、高額な賠償額が認められるためには、遅延損害金と弁護士費用相当額が重要になります。判決の場合には、遅延損害金(年3%。なお、令和2年3月31日以前の事故については年5%)と、弁護士費用(概ね損害額の10%程度)が賠償額に加算されます。和解の場合には、これが加算されない和解案が裁判所から提示されることが多いですが、事例1~5の事案では、いずれも遅延損害金や弁護士費用の額として相当な金額が加算されています。「遅延損害金や弁護士費用」が加算されるかどうかは、①裁判の進捗状況、②判決となった場合のリスク(過失割合や各損害の算定について、裁判所の和解案よりも低額の判決となるリスク)の有無との兼ね合いで難しい判断となります。事例1~5は、いずれも立証が十分にできていると確信できるケースだったので「判決と同様に遅延損害金と弁護士費用を加算しなければ、原告は和解しない。」と主張し、無事、弁護士費用相当額と和解時点までの遅延損害金も和解案に盛り込んでいただき、和解が成立しています。

