札幌弁護士青野渉が交通事故被害について、詳しく解説します。
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交通事故被害
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刑事記録の書類にはどんなものがあるか
 ここでは、刑事記録に綴られている主な書類の内容を説明し、また、日ごろ、私が感じている問題点も指摘しておきます。
実況見分調書〜事故状況を図面化した最重要の証拠
 交通事故の捜査において、警察が作成する証拠書類の中で、最も重要なものが実況見分調書です。
 事故の状況を図面化したもので、交通事故の場合には必ず作成されます。実況見分調書に添付されている交通事故現場見取図が、最も重要な証拠書類といえます。この見取図は、通常は200分の1の縮尺で作成され、大きく分けて、2つのことが記入されています。
 一つは、事故直後の現場の痕跡です。スリップ痕、タイヤ痕、血痕、擦過痕、ガウジ痕などを図面に記入し、その位置を特定します。警察官が現場に到着した時点で、加害車両が事故当時のままであれば、その位置なども記入されます。そして、その状況を、できるだけ写真にとって添付することになっています。事故直後の現場の痕跡を記録した実況見分調書は、交通事故捜査では、命ともいえる重要な書類です。
 ただし、実際の実況見分調書の「質」は、千差万別です。スリップ痕にしても、例えば、電柱や街路灯等の不動の物を2点選んで、そこからの距離をきちんと測定して正確な位置が記載され、なおかつ写真も豊富に撮影してある丁寧なものもあれば、位置も特定されておらず、スリップ痕の写真が1枚も添付されていないものもあります。率直に言って、個々の警察官の「やる気」や「能力」に大きな違いがあると感じます。警察官の捜査のやり方を定めた規則である犯罪捜査規範でも、現場の保存の重要性を指摘していますし、どうしても保存できないときは写真等にとっておくことを定めています。「交通事件捜査書類作成要領」「自動車事故捜査手帖」などの警察官向けの本にも、写真を活用することが指摘されていますが、残念ながら、現場では全く徹底されておらず、大事なスリップ痕や擦過痕などの写真さえも残っていないケースはしばしば見ます。そのために、被害者が事故の真実を解明するために苦しむケースも多々あります。
 実況見分調書のもう一つの目的は、加害者、被害者、目撃者等の関係者の説明に基づいて、「@地点で、A地点にいる被害者を発見した」「A地点でブレーキをかけた。その時、被害者はB地点にいた。」というように、事故状況を再現することです。ただし、目撃者がいるとは限りませんし、被害者が重傷・死亡の場合には、被害者の説明を聞くことはできませんので、基本的には加害者の説明によって作成されることが多いので、その内容が正確なものかどうかは慎重に見極めることが必要です。
 現場痕跡の実況見分調書と、関係者の説明による再現状況の実況見分調書が別々に作成されることもありますが、1枚の図面に全て記入されることもあります。
 実況見分調書は、交通事故捜査においては、最も重要な証拠書類ですが、以上のように、常に完璧に作成されているわけではありません。もちろん、警察が、きちんと実況見分調書を作成し、特に問題が無いケースもあるのですが、残念ながら、そうではないケースも少なからずあるのです。
 私が、「事故後に、被害者が現場や車の写真をとっておいたほうがいい」と思うのは、そのためです。
自分で写真をとるときの注意点
実況見分調書の開示
供述調書〜関係者の話した内容をまとめたもの
 加害者、被害者、目撃者、被害者遺族などが、警察官に喋った内容を記録した「供述調書」という書類が、それぞれ、作られます。
 加害者の供述調書は、必ず、作成されます。
 他方、被害者については、死亡したり、意識不明の重体だったりすることがありますので、そのような場合は、作成されません。また、軽微な事故の場合には、被害者の供述調書を作らずに、事件処理することも多いようです。
 目撃者については、警察が把握していれば作成されますが、把握していなければ作成されません。遺族が目撃者を探すための看板を立てたり、チラシを配ったりして有力な情報が出てくるケースもあります。事故状況について、どうしても不可解な点がある場合には、情報提供を呼びかける看板などを作成するのも一つの方法です。
 遺族調書は、死亡事故の被害者遺族が心情などを述べるもので、公判請求される場合には、作成されることが多いのですが、不起訴処分にしたり、略式で処理する場合には作成されないことが多いです。
鑑定書〜速度は科学的に解明される?
 交通事故の被害者は「警察が科学的に捜査してくれれば、事故時の速度など簡単にわかる。」と思っている人が多いのですが、実際には、速度を算出するのは、かなり難しいのです。各都道府県警には、科学捜査研究所という機関があり、速度鑑定を行います。しかし、交通事故の鑑定は、最先端の機械を使うわけではなく、一般的な物理法則を前提にして、数式にあてはめたり、同種の実験結果のデータなどを参照して計算するだけで、いたって地道な作業です。したがって、前述した実況見分調書などの資料がきちんとしていなければ、前提となるデータ不足のため、鑑定は全くできません。
 交通事故捜査において行われる鑑定は、速度の鑑定が大半です。警察段階の鑑定を外部に委託することはほとんどなく、各都道府県警察本部の科学捜査研究所というところの職員が行います。
 速度の鑑定のやり方はいくつかありますが、最も多いのは、ブレーキ痕の長さから速度を算定するやり方です。これ自体は、特に難しい方法ではなく、市販の本などにも記載されています。ただし、この方法はABS車両のようにブレーキ痕がつきにくい車だと計算できないことがあります。また、この方法をする場合には、実況見分調書上のブレーキ痕が正確である必要があります。ブレーキ痕は、断続的に残っているケースもありますが、そういう場合に、加害者が「1本目はそうかもしれないが、2本目のブレーキ痕は俺の車のではない。」などと言いだすことがあります。実況見分調書に、ブレーキ痕の写真がきちんと残っていれば(全体像と接写の双方)、そういった弁解について加害車両のタイヤとの照合などの科学的な検証が可能になりますが、写真がないと、加害者の弁解が認められてしまうこともあります。
 もう一つの方法は、衝突による自動車の変形量から速度を換算する方法です。これは、四輪車同士の事故では有効な方法なのですが、歩行者や自転車をはねた事故についてはほとんど利用できません。また、証拠として、破損した車両等がどのくらい変形したかがわかる資料(凹損量を測定した実況見分調書があると最も有効)がないと鑑定できないことになります。
 他には、歩行者や自転車が跳ね飛ばされた距離から算出する方法などもあるのですが、これはその前提として、事故の瞬間のデータ(衝突位置、被害者の重心の高さ)や人体の摩擦係数などを代入する必要がありますので、やはり、事案によって使えるケースと使えないケースがあります。
 どのような算定方法を使う場合でも、データが不足していると計算できなくなります。
 その意味でも、写真などの資料をできるかぎり沢山保存しておくことが、決定的に重要なのです。
疑わしきは被告人の利益に
検視調書〜遺体の状況を確認したもの
 刑事訴訟法229条は「変死者又は変死の疑のある死体があるときは、その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は、検視をしなければならない。」とされています。
 「変死」というのは、なんらかの犯罪によるものではないかと疑いのある死亡のことです。したがって「変死の疑」というのは、日本語としては、ちょっと変なのですが、要するに、犯罪による死亡ではないと断定できない場合には、全て検視をすることが定められています。
 交通事故の場合も、通常は、検視が行われ、「検視調書」という書類が作成されています。
 しかし、自損事故扱いとされたり、亡くなった方自身の一方的な過失と扱われた場合には、検視が行われないケースもあります。このようなケースは亡くなった人が「被疑者」とされ、しかも、被疑者死亡という扱いで、記録自体も短期間で廃棄されてしまうので、被害者遺族にとって真実を解明することは非常に困難になります(刑事記録の保管期間)。死因もはっきりしないうえ、亡くなった人間が悪者扱いとなり、被害者遺族は二重に苦しむことになりかねません。日本の検視制度や司法解剖には根深い問題がありますが、この問題については、ジャーナリストの柳原三佳氏の「死因究明」(講談社)に詳しく書かれていますので、興味のある方は是非、お読みください。
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 このページは2013年8月21日に更新しました。内容に誤りがないように留意しておりますが、万一、誤りにお気づきの方は、こちらにメールしていただければ幸いです。
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